■1.序
派遣社員の解雇に伴う社宅・寮からの追い出し。これは企業からすれば当然の行為である。
解雇そのものの妥当性、適法性は棚上げして言えば、従業員でも下請け企業の社員でも何でもない人間に費用を払って住居を提供する義務は企業にはないし、会計処理、税務対策上も問題がある。
■2.住宅の区分
そもそも社宅という存在が特異なものであり、また経営体力の弱い中小零細企業にまねができることでもない。
住宅を所有で分類すると、持ち家、貸家(賃貸住宅)に分けられ、建設・管理主体で区分すれば公営(あるいは公共)と民営に分けられる。
公共主体で持ち家を供給しているのは、都市再生機構(旧住宅・都市整備公団でその全身が日本住宅公団)である。都道府県営や市町村営住宅は中低所得者対象の賃貸住宅である。それ以外に、都道府県の住宅供給公社があり、また民営の賃貸住宅に対して公的な補助をしたり借り上げたりする制度(特定優良賃貸住宅)も近年はある。
社宅・寮の類は、これも企業が一般の住宅を借り上げて社員に提供する形態もあるが、大企業の場合など、社員寮として独立した建物になっていることが多い。この公営版が公務員宿舎である。また雇用促進事業団住宅のような「盲腸的存在」もある。郵政の宿舎は今は民営か(笑)。
■3.持家率について
2005年の国勢調査によると、全国の持家率の平均は62.8%。つまりほぼ3世帯に2世帯が持ち家である。これは戦後の住宅政策の誘導による結果であると言ってよい。ちなみに東京は47.4%で最低、大阪府が54.3%で低い方から3番目、富山県が一番高くて79.1%、2位が秋田県の78.0%、3位が福井県の75.8%など、大都市部の持家率が低く、地方が高い。富山県の持家率の高さは有名である。また、実態を見ると、持ち家の率だけでなく、住宅の規模(広さ)も当然のことながら地方が大都市よりも勝っている。
一方、2003年の土地・住宅統計調査によると、世帯主の年齢階層別では高齢者ほど持ち家率が高くなっている。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2003/panflet/4cyou3.htm
この調査では数値が若干異なるが、都道府県別の持家率も掲載されており、上記とほぼ同様の結果である。
「逃げ切り」のできた年代である。
■4.持ち家取得を支えた住宅金融政策とその限界
20世紀後半の日本の高度経済成長は、農山村から若者を大都市に労働者として移住させ、主として第二次産業(建設、製造)の生産高を伸ばす形で達成された。企業は低廉な費用で社宅を用意して、年々増える給与は貯蓄に回させ、住宅購入の頭金に充当し、不足分は住宅ローンで賄った。そのための機関が住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)であり、また年金保険料を原資とした年金住宅融資がこれを補った。
この制度の前提は、右肩上がりの経済成長と給与の増加、終身雇用制及び年二回以上のボーナス支給である。これが崩壊する前に高度成長の果実を手にした、現在の高齢者世帯の持家率が高いのは当然の結果だろう。住宅の取得価格は年収の5倍が目安とされた。住宅ローンの返済月額が収入の3割を超えないように、という試算から求められた。年収500万円なら2500万円の住宅が適正ということだ。
大都市近郊は開発され、都市計画も1968年の法改正で、それまでの住居地域、商業地域、工業地域の三区分だった用途地域を8区分にし(現在は1992年の改正で12区分)、第一種及び第二種住居専用地域や工業専用地域が設置され、職住分離の推進が図られた。もっとも今や工業専用地域は、その硬直性と規制の厳しさ故に、お荷物になっていると言ってよい。
よほど頭金を貯めていないと、購入価額の不足分を住宅金融公庫の融資だけで賄うのは無理で、相対的に高金利の銀行の住宅ローンもあるが、これを嫌えば年金住宅融資ということになる。
平均的なサラリーマンの手の届く住宅は、多くはマンションと呼ばれる共同住宅(英語のmansionが大邸宅の意味であることは言うまでもない)で、東京都心から30~50kmくらい離れた地域に立地し、長距離通勤と満員の通勤電車を出現させた。これらの住宅地、特に多摩ニュータウンのような大規模で比較的早くから開発された住宅地は、建物の老朽化と居住者の高齢化という二重の老化現象でゴーストタウン化する恐れがある。エレベーターの設置されていない4、5階建ての公営住宅など、即座に全部取り壊して建て替えた方がよい。財源の問題はあるが(事業主による公募債あたりかなあ)、これはこれで景気の刺激に対象はなるのではなかろうか。
私自身はこうした開発に携わったことはないが、大学時代の教材であり、自戒の念も含めて言えば、こうした開発に携わっていた人たちは本当に50年後のことを考えていたのか、問い詰めたい気分である。問題の先送りはこの国の以前からの宿痾なのだろうか。
年金保険料が住宅政策に関与することで、これは厚生行政の利権となったともいえる。給与が伸び続ければ年金保険料の負担はあまり苦にならないし、持ち家を購入するために年金住宅融資を利用しようとすれば保険料を滞納するわけにはいかない。何のことはない、持ち家推進という住宅政策の利権に、旧大蔵省、厚生省と建設省が群がったという構図である。
1980年代までの長閑でよき時代は終わりを告げた。今や年収200万円の時代。年収の5倍というなら住宅価格(土地も込み)は1000万円でなくてはならない。実際に東京で売りに出されている共同住宅の価格は3000万円を超えている。とは言っても、実際には購買意欲の参加の所得層もあるわけで、一昨年くらいまではマンションブームだった。東京の持家率も増加している。それで調子に乗って住宅の過剰在庫となり、金融引き締めだ。そりゃあ不動産不況にもなるわな。国の住宅政策に基づく一種の官製不況かもしれない。
■5.適正な税の使い道とはいえない(広い意味での)公営住宅
一方、公営住宅は、というと、中低所得者向けの賃貸住宅なので、入居には所得制限があり、これを超えると退去しなくてはならないのだが、実際には居住していることそのものが既得権益となって、退去しないで税金泥棒と化している世帯がいる。公営住宅に住みながら、宝飾類に身を包み、毛皮のコートを着て高級外車に乗っている、という輩がそれである。
今、政府や自治体が失業者に対する一時的な措置として提供しようとしているのが、こうした住宅の空室である。
低所得者向けの住宅供給ということでは、本来の目的に近い形なのだろうが、通常時は目的外居住が常態化し、こういう非常時に正常に近い形になる、という公営住宅とは一体何なのだろうか、考えさせられる。
もう一つの「公営住宅」である公務員宿舎は、立地条件がよく規模もそこそこなのに、家賃は割安である。
民間企業が同様の水準で社宅に社員を住まわせたら、恐らく税務調査で給与認定されて追徴金が追いかけてくる。官尊民卑である。
■6.そして今
一人残らずすべての国民が路上生活せずに暮らす、というのは不可能だろうが、ホームレスの増加が社会問題になるまでは、日本の住宅事情はそれに近いものであった。しかしそれは砂上の楼閣だったのだ。ホームレスの中には持ち家を購入しながら途中で破綻してローンが払えなくなった人もいるだろう。アメリカのサブプライムローンに似たようなステップ返済(ゆとりローン)などという制度を、かつて住宅金融公庫も実施していたのだ。
http://www.tomatohome.jp/pub/yutoik/yutori.html
ああ、2世代で返済などという若年層にしわ寄せの行く仕組みもあったな。
そして、職を失うと同時に住むところもなくなる、という人が多数出ている社会状況になってしまった。
彼らの中には地方出身者も多いだろうが、その地方も持家率が高くて住宅事情はよいように見えのに、地域経済が疲弊し、受け皿になりえていない。
そうこうしているうちに少子高齢化が進行すれば、既存の住宅ストックの維持管理をしきれない、という問題も出てくる。老朽化した空き家が多く放置されれば、防災や防犯上も好ましくない。
目先の景気対策ではなく、人材の流動化の促進や新たな成長産業を伸ばすなどして経済の活性化を図らないと、持ち家重視を継続するにせよ賃貸重視に転換するにせよ、あるいは第三の道を模索するにせよ、21世紀の住宅政策は描けないだろう。惰性でこれまでの政策を続けたのではだめだ。そのためには視野狭窄に陥った正義感で何でも法律で規制しようとする官製不況の根っこをまず絶たなければらないだろう。
■7.終わりに
あまり論理的でない文章をだらだらと書き連ねてきた。きちんとやろうとしたら、時間をかけて資料を精査して、きちんとした論文にする必要があるが、そんなつもりはとりあえずない(笑)。拙稿について読者諸兄の批判を仰ぎたいところである。