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2009年9月23日 (水曜日)

再整理・高速道路無料化政策への反論

2008年3月6日に民主党のブレーンである山崎養世がこんなことを書いている。
高速道路の借金爆弾を処理せよ

日付からわかるように民主党が野党の時のものだが、民主党が政権を取った現在も基本的に言っていることは変わっておらず、民主党の高速道路無料化政策の理論的支柱である。多分に煽動的なところがあるので、指摘してみよう。かれは高速道路無料化への批判に対して、前提が違っている、と言うが、前提が違っているのは一体どちらなのか。

1.高速道路の延長や整備手法の意図的なねじ曲げ

借金をして3,500キロの高速道路を新たに建設というのだが、これは国土開発幹線自動車道の全体(予定路線という)延長11520kmから供用済みの「約8000km」を引いた数字である。実際には予定路線から建設すべき区間として基本計画区間が指定され、その中から実際に建設事業に着手する整備計画区間がしている。基本計画区間は10607km、整備計画区間は9342kmという数字が出回っており、これをベースに話を進める。なお、平成19年12月の国幹審で東京外環16kmが基本計画路線に追加されているので最新データとしては10623kmということになる。

平成21年4月1日時点で供用済みの高速道路は7641kmであり、予定路線との差は3,879kmである。これは3500kmよりも多いが、供用済み延長の取り方による違いに過ぎず、本質的ではない。このうち、整備計画区間に指定されて事業中なのは1701kmであるが、高速道路会社が担当している有料道路方式は915kmである。残りの786kmは「新直轄方式」と呼ばれ、主として採算性の悪い区間(そうでないところもあるが)を対象に、国と地方自治体が建設費用を分担して建設するもので、当該区間内のみであれば、完成後は無料で通行できる。

これとは別に「高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路」が362km、「一般国道の自動車専用道路」が973km事業中である。これは高速道路会社が担当し有料道路方式である。こうした役所用語ではわかりにくいので具体的な例を示すと、前者は「第二東名、京葉道路、東水戸道路、名阪国道、仙台東道路など」で720kmが供用済、後者は「圏央道、東海環状道路、三陸縦貫道など」で1107kmが供用済である。

要するに現在有料道路方式で高速道路会社が担当して建設している高速自動車国道を含む高規格道路の延長は2250kmであり、これには今年度中に開通する区間も含まれる。

これ以上の有料道路方式による建設については、採算性が悪ければ整備計画区間に指定しなければ(あるいは国土交通大臣が建設命令を出さなければ)、実行されることはない。それこそ政治主導で決着すればよいのだ。なお、首都高速などの都市高速道路は地域高規格道路という範疇に属し、法的には高速道路としての扱いはされておらず、上記の高速道路延長とも関係がない。

ここで山崎の言う借金をして3500kmの高速道路を新たに建設、というのが事実でないことがわかる。

2.実態と異なる借入金額や返済実績を無視した煽り

次に日本高速道路保有・債務返済機構(以後、高速道路機構と称する)の債務の問題である。
平成17年10月1日の「高速道路の民営化」に伴って発足したこの機構は、高速道路建設に伴うそれまでの債務を引き継ぎ、三つの高速道路会社からの賃借料収入を主たる原資としてこれを返済していく役割を担っている。

山崎はこの負債を40兆円としているが、平成20年度決算では34兆5630億円にまで減少しており、負債総額は前年度より1兆495億円の減少である。

また、山崎は「残りの整備計画区間の1300km」の建設のために20兆円の借金を追加、さらに上記のようにあまり根拠のない数字を基に、基本計画路線を全て建設するとした場合に追加でさらに20兆円としており、何故かその合計が100兆円となっている。どうして40 + 20 + 20が100になるのかわからない。どこかに見落としがあるのだろうか(笑)?

そもそも「残りの整備計画区間」のうち有料道路方式で建設するのは1300kmではなく915kmである。
そのための借入金は、現行の体制での返済を織り込んでいると考えるのが自然である。新直轄という建設方式や整備計画路線の9342kmは民営化の時点で既知のものだからだ。

つまり上記のように、現行の整備計画路線以上の建設をしなければ、山崎の憂慮する最終的な追加の20兆円の借入れはなくせるのだ。なお、基本計画路線である東京外環の16kmは、現行のスキームならば東日本高速、中日本高速、首都高速の3社の入札になる見通しであり、高速道路機構の返済の枠組みとは切り離して考えてよい。というよりもこの道路については首都東京の環状道路であり、建設する必要がある。

高速道路機構の平成20年度決算によると高速道路3社からの賃借料収入は1兆7736億円であり、これが全収入1兆7926億円の大半である。これはもともとそういう財務構造なのだ。収入自体はETC割引などの影響があり、やや減少している。平成21年度は土日祝日の1000円定額があるのさらに減少するだろうが、これは国庫から負担される。一方支出の中に財務費用という項目があり、これが支払利息である。平成20年度は5615億円であり、負債の減少とともに平成19年度の5775億円から160億円減少している。

単純計算すると金利は年約1.62%であり、山崎の指摘するとおり1%台の低利である。
(実際の金利計算はこんな単純ではないはずだが(^_^;))

確かに山崎の言うとおり「この超低金利は、ここ15年の特殊な状況によるもの」だろうが、「70年代までのインフレ期には、金利は10%近くまで上昇していました」という事態が再現されれば、それこそ日本経済そのものがおかしくなり、高速道路の借入返済云々どころではあるまい。その時には国の借金である国債自体も返済不能になって、日本国の財政はデフォルトではないのか。そして民主党が政権の座にあるうちは民主党が日本国の経済運営に対して責任を持つのだ。野党の時と同じ批判では通用しない。

そのとおりになるかどうかもわからない将来に対して極端な不安材料を提示して、読者(一般国民)の危機感を煽り、現行の機能しているスキームまで否定するのはアジテーター以外の何者でもない

3.借入を国庫に戻すことによる一般国民の税負担増と借入明細の不透明化

山崎は「借金は国の丸抱えなのです。“機構”という不明朗な国営ペーパーカンパニーへの借金の「飛ばし」をやめ、実態通りに国の借金に切り替え、そのうえで返済の財源を確保すべき」というが、かつての道路公団ならいざ知らず、いくら高速道路会社の株主が100%国といっても、こうして財務状況がウェブで一般公開されているのだから、「不明朗な国営ペーパーカンパニーへの飛ばし」というのは言い過ぎだ。むしろ高速道路建設の借入がこのような形で明確に切り分けられていることを評価すべきではないのか。国の借金にしてしまえば、800兆円の負債に紛れて、その返済責任が有耶無耶にされてしまう危険性がある

山崎は国の借金にした場合の財源として、ガソリン税の暫定税率やいわゆる埋蔵金を想定しているようだが、暫定税率は一般財源化されており、さらに民主党の政策では廃止する方向ではないのか。また埋蔵金とて勝手に高速道路の借金の返済に充てることなどできないはずである。

そもそも、山崎の書いたものを読むと、彼の頭の中では高速道路利用者と一般道路利用者が完全に分離されているように読める。高速道路は一般道路があって初めて利用できるのだ。高速道路利用者の支払っているガソリン税や重量税などが一般道路建設に流用されており、さらに高い通行料金を取られて二重取りだ、という論理はおかしい。一般道路を利用しない高速道路利用者などいないからだ。自宅の車庫と職場の駐車場の両方がインターチェンジ直結なんて人はいない。

高速道路が無料になれば、それこそ高速道路を使わないドライバーまで、国の借金という形で負担を背負い込むことになる。しかし「国営ペーパーカンパニーに飛ばし」ている限り、借金の負担は(一般道路も利用する)高速道路利用者の料金負担で済むのだ

4.疑わしい経済効果とその前提

地方は高速道路の料金が高くて利用されずガラガラの一方、一般道路が混雑しているという。高速道路無料化をすれば一般道路の混雑が解消されるという。一体どんな田舎を想定していっているのか。少なくとも、土日祝日1000円定額でわかったように、大都市圏とその周辺では高速道路も一般道路も渋滞する。事故発生の増加については山崎は何も答えていない。質問する奴もいないのかもしれないな。そして彼は、休日のピークに実施するからああなるのであって、常時無料化すればそんなことはないともいう。平日と休日の交通量の質の違いをわかっているのだろうか。いや、現在の平日は高速道路の運転に慣れたドライバーが多いから、それなりの平衡状態を形成していると考えられるが、無料化で不要不急の不慣れなドライバーが入ってくると交通の流れは完全に乱される。片側二車線しかない区間で追い越し車線をノタノタと走られた日には堪らないし、登り坂先頭の渋滞は常態化するだろう(登坂車線を設置すればある程度解決されるが、それとてお金がかかるしすぐにはできない)。

船会社、バス会社、鉄道会社の不安もつきない。一旦公共交通機関が崩壊するとこれを取り戻すのは容易でない。現にいくつかのフェリー会社は廃業に追い込まれている。高速道路無料化で7.8兆円の経済効果が見込める、と山崎は言うが、それは道路だけで閉じた場合の話である。その一方でコンパクトシティだのLRT(Light Rapid Transit、いわば最新型の路面電車)言っているのもよくわからない。

一般道路の混雑が解消される、ということは、現在一般道路沿いでドライバーを相手に商売している店舗などは売り上げが減少することになる。かといって、構造的に高速道路沿道に移転することもできず、SAやPAに全部を移転することもできない。鉄道利用者が減少すれば、関連サービスの売り上げも減少する。これらは雇用にも直結するのだ。7.8兆円の経済効果も怪しいものである。

確かに、以前民主党の馬淵現国交副大臣が指摘したように、国交省による交通量の中期推計はおかしい。今後交通量が劇的に増えることはないだろう。しかし交通量は車の台数=ドライバーの人数だけで決まるのではない。台数×トリップ数で決まるのである。移動の機会が増えれば交通量は増える。そして、経済成長によって移動の機会は増大する

トリップ 起終点をもつ移動のこと。1トリップには起点と終点が一つずつある。

結局のところ、今の民主党の政策に欠けているマクロの経済成長政策を1日も早く明確にし、金利の暴騰が起こらないようにしつつ、現在の民営化のスキームの中で早期に借入金を減らしていく、という地道で着実な方法をとることが望ましいと考えられる。今のスキームは小泉政権下で猪瀬直樹主導で実施されたものであり、反対の人も少なくないと思うが、いろいろと制約がある中でよく考えられていると私は評価している。少なくとも、様々な混乱と不公平を引き起こす可能性のある無料化よりは優れている

(追記)
今の民営化では、もともと償還が終わったら無料開放する約束の高速道路が永久に有料化する、という議論がある。確かにそのとおりである。しかし高速道路も維持管理が必要になる。償還が終わった段階で高速道路機構や高速道路会社を解散し、維持管理費は税金から支出する、というのが一つの考え方である。

だが、償還まで今のスキームを続ければ高速道路会社には技術や付帯サービスなど様々なノウハウが蓄積される。それを活用しない手はない。高速道路で支払った料金を年末調整や確定申告で控除すればよいのだ。電子納税が進めばETCあるいはその発展形と連携して難しいことではない。40年くらい先の話なのだから、現在からは想像もできないような革新的な方法も開発されることだろう。

控除した料金分の還付まで一時的に支出することにはなるが、基本的に現在の確定申告における還付金と同様の扱いになる。大切なのは現行の生命保険や医療費控除のような小手先のやり方ではなく、高速道路料金を社会保険と同様に全額控除の対象とすることだ。こうすれば、事実上高速道路が無料化したのと同じことになる。税金として徴収され、一般会計に潜ってしまって不透明になるよりも、この方がノウハウを蓄積した高速道路会社によって適正に高速道路の維持管理に執行される。

高速道路機構の財務状況(高速道路会社の財務状況へのリンクあり)

どうぞご批判下さい。また、このエントリーへのリンクを前提に、丸々転載していただいてもかまいません。

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コメント

無料化には絶対反対です。
二酸化炭素の増加云々はどうでもよい与太話だと思いますが、事故とその死者は確実に増えるというものです。
また、へぼドライバーの侵入に加えて、珍走団が絶対に増える。一部のバカなトラック運ちゃんも加わり、普通の従来のドライバーの命は随分と危険に晒されます。
山崎養世曰く「4分の1程度の年間約2兆円は高速道路ユーザーが負担していると推計される」。私の感覚と大分違うのですが・・・。

投稿: Joe | 2009年9月25日 (金曜日) 13時27分

>>Joeさん

ドライバーの質というのは、交通安全・事故防止や渋滞の軽減という観点から無視できない要素なんですよね。ここが多くの論者からはすっぽりと抜け落ちている。自分で運転しないで論じている人がけっこういる、ということでしょう。

1/4云々ですが、猪瀬直樹の主張では高速ユーザーはドライバーの10人に1人だそうです。これはこれで少ないような気もしますが、自分が高速走るとドライバーは皆高速使うような気になります(笑)。確かに通勤や買い物くらいでしか運転しなければ高速道路は縁がないでしょうね。

投稿: フロレスタン | 2009年9月25日 (金曜日) 13時45分

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