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2008年12月29日 (月曜日)

「シュウカツ」と「ナイテイ」というおかしな仕組み

世界的な景気の悪化で、大学卒業予定者の「内定取り消し」が、メディアの手によって半ば強引に社会問題化されている。

そもそも,大学卒業生を一括して4月に就職させる(実態は3月以前に「入社」させている)というのが奇怪なのだが、そんなことができるのは大手・中堅企業や役所くらいのものだろう。

私が大学生だった約30年前は、会社訪問の解禁が4年生の10月1日で、入社試験の解禁が11月1日だったと記憶している。だから9月以前は「OB訪問」という名目で会社訪問していたものだ。もっとも私は大学院に進学するつもりだったから、まじめに「会社訪問」はしなかったし、大学院に合格した秋以降は就職活動(当時は「しゅうかつ」などと略さなかった。今は何でも略す軽薄な世の中だ)すらせず、真面目に卒論書きながら実はアルバイトもしていた(笑)。

最近はこれがどんどん前倒しされ、3年生の後半から4年生の最初の頃が就職活動の対象である。これではまともに大学教育などできないだろう。3年生というのは専攻分野を勉強する一番大切な時期だ。大学が就職予備校化している現在、こういうのはアナクロニズムと捉えられるのだろうな(^_^;)。

東京理科大で非常勤講師をしていた時は4年生の前期の演習を担当していたが、毎年「就職活動がありますから」といって欠席するのが毎週のようにいたものだ。特に建築系の学科で1990年代ということで、就職活動が難儀した学生も少なくなく、教える立場からすると「勘弁してくれよ」といつも思っていたものだ。幸い演習でグループ単位で活動させていたので、グループ内での相互扶助が期待できたのだが、それでも特定の学生にしわ寄せが行く構造がしばしば出現した。

かつてのように何の疑いもなく右肩上がりの経済成長であれば、この仕組みが機能したのだろうし、逆に昨今は「優秀な学生」を早く囲い込みたいという動機で、内定を早く出すようになっているのだろう。

しかし、よくよく考えると社会主義国家じゃあるまいし(よしんば日本の実態が官僚社会主義だとしても市場主義経済の世界で活動しているわけで)、1年半も前から必要な人材を見極め、1年前に採用内定を出す、というのは冒険のはずである。これまでその構造が維持できたのは、公的資金導入、円安、低金利、派遣労働者の大量導入による人件費削減などの経済政策で、なんとか日本経済が大きく破綻せずにやって来られたからだろう。あるいは企業が大きく変化しなくてもやって来られた、という時代が続いていたということかもしれない。1年も経てば経営環境が変わり、必要な人材も変化する、ということがあってもおかしくないはずだが、そういう必要性に迫られることが大企業や役所には少なかったのだろう(あるいは人材の墓場のような部署が緩衝帯の役割を担っているか)。

しかし、今回の世界規模での金融破綻、信用収縮により、この冒険はついに失敗の時を迎えてしまった。古き良き時代は本当に終わりを告げたのだ。

今朝の毎日新聞に、女子の文系大学院生の就職が極めて狭き門だという記事が出ていたが、その中で採用時の男女差別という不法行為がどうどうと罷り通っていることが述べられていた。記事で紹介されていた院生は、本社の所在地に通勤可能なところに実家がないと女子は採用しない、と言われたのそうだ。男女差別だけではない、もっとひどい差別である。造船に興味があるそうだから、海外企業への就職を目指した方がいいのだろうな。

恐らく企業サイドは違法性を認識しているはずだが、採用担当者に無知なふりをさせている。相変わらず「コンプライアンス」などという肌に馴染まぬカタカナ言葉が空々しく響く。まあこんな会社には就職しない方がよい。船舶企業ではなく浅薄企業である。いや千三つ企業かもしれない。

こういう機会に、日本社会全体で、大学生の就職のあり方を考え直してみるべきだと思う。既存の企業に卒業生を送り込むだけでなく、大学発や産学協同のアントレプレナー(いわゆるベンチャー企業)を増やし、大きくしていく仕組みを拡大することも必要だろう。

(追記)
こんな記事(書評)がありました
就活のバカヤロー』は、じつは「頭がいい」タイトルなのだ。

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コメント

> 管理人様

拙僧自身も、文系の大学院を出ていますが、何せ文系の大学院生というのは、お金を生み出せない研究ばっかりですから、この女性には悪いけど、多分男女という性差以前に問題があったと独断してみたりします。

投稿: tenjin95@栗原市 | 2008年12月30日 (火曜日) 22時29分

>>tenjin95さん

コメントが年を越してしまいました。今年もよろしくお願いします。

この女性は造船業に興味があったようなので、霞を食うつもりがない点で同情の余地があるのかな、と私は思っています。

雇用や取引関係の法令については、例えばサービス残業のような問題では中小零細に大いに問題があるかもしれませんが、全般的に大企業の方が雇用者や取引企業との力関係から意図的な法令無視があるのではないか、と邪推しています。

実際に個々の求職希望者に接すれば、その人に問題があるかどうかは、上記の議論とは別次元で明らかになりますね。

投稿: フロレスタン | 2009年1月 1日 (木曜日) 20時42分

内定出してほったらかしにするぐらいなら、その時点から給料を出して実習生として働かせればよいのにと思います。(海外では一般的)

大学の専門と多少は関連のある仕事のはずだから、業務上の秘密にかからない範囲で、卒業研究、卒業論文の題材にもなるはずでしょう。

そうすれば中身のない単位のためだけの自己満足の論文ではなく、実社会で役に立つ内容の論文となって、学術面でも産業面でも世に多少は役立つことになるでしょう。

そして、何より、就職活動のために本来の学業が疎かになるのが防げると思います。

投稿: wagonthe3rd | 2009年1月 2日 (金曜日) 05時49分

>>wagonthe3rdさん

まったくもっておっしゃるとおりです。
日本企業も国際基準とかグローバルというなら、人の使い方もそうするべきですね。

企業だけでなく大学サイドも考えるべき問題かもしれません。

投稿: フロレスタン | 2009年1月 3日 (土曜日) 00時11分

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