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2008年6月29日 (日曜日)

本当に怖いのは寒冷化

こんな論評をみつけた。
健全な水循環を育んだ稲作漁撈文明の知恵 気候変動の文明史
理学博士 国際日本文化研究センター教授 安田喜憲

環境共生型の住宅メーカーの販促目的のブログらしいのだが、掲載されている研究者らの文章は学術的なものである。

安田氏は気候変動の歴史に詳しい環境考古学の第一人者と言ってよく、この文章も興味深くまた示唆的である。しかし、二酸化炭素温暖化主犯説に立脚して、結論が「温暖化は恐怖」ありきなので、突っ込みどころがいくつかある。それを記述してみることにする。

まず、本質とは関係ないのだが、以下の文章は軽率だと思う。

こうしたボートピープルが稲作の技術を携えてきて、ごく原始的な形での稲作が、日本に伝播したのです。彼らは呉越の人々でした。日本海側の海岸部には、越後、越中、越前という地名が残っていますが、これは呉越の越なのです。
日本の古代史や古典、言語学などに詳しい人がいたらご批判をいただきたいところであるが、私見は次のとおりである。

確かに現在の新潟県から福井県東部に至る地域は「越国」だが、これは「こしのくに」であり、かつては古志、高志と書かれた。つまりkosiという大和言葉に万葉仮名風に漢字が充てられ、のちに越の字に変わった。一方漢語だと、現代北京語ならば越はyueという音であり、古代南方方言については正確な知識を持ち合わせないが、ベトナム・越南のvietからある程度想像はつく。「何らかの半子音 - eまたはそれに近い母音 - t,d,sのような調音点が口腔前方にある破裂または摩擦子音」という音素からなるのだろう。従って、kosiという発音との結びつきを全く否定はできないが、恐らくは別のものと考えた方が自然である。

4000年前の日本列島にkosiと呼ばれるような社会的まとまりがあったとは考えにくいし、仮にあったとしてもそれを古代シナ江南の越と結びつけるのは強引すぎるだろう。それと呉越の両国に言及しているが、呉の方はどうしてしまったのか。確かに越中には呉羽山というのがあるけれど、まさか広島県呉市だ、などとは言わないだろう。

本題に入る。

欧州人の欧州及び北米大陸、ニュージーランドにおける徹底的な森林破壊についての記述は痛快であり、これを回復ないし回避するためには水循環が重要であり、そのためには一神教的動物文明から、東アジアモンスーン地域に根ざす多神教的植物文明に注目すべきだ、というのはそのとおりだと思う。

グリム童話など欧州の民話には、ヘンゼルとグレーテルが典型だと思うが、パンも食べられない貧乏な民衆が登場し、森は狼や魔女の住む恐怖の暗黒世界である。そしてその貧乏な民衆は話の最後に森のシンボルを滅ぼす。赤ずきんや3匹の子豚は狼を抹殺し、グレーテルは魔女を窯焼きにする。これは飢えと寒さや森林伐採を正当化するための当時の民の論理が結実したものだろう。

この論評を通じての書かれているが、文明が栄えたのは温暖な時期であり、寒冷化すると食料や燃料が確保しにくくなり、それは悉く民族の大移動を引き起し、そしてその移動の結果、更なる自然破壊が引き起こされる、ということである。日本列島の場合も「それ以前の4200年前に日本に伝えられた稲作は、おそらくそこまで本格的ではなく、焼き畑のような形で行なわれていたのだろうと推測されます」と述べられているように、「森林破壊」が引き起こされたと考えるべきである。寒冷化(とそれにともなう戦乱)によって、華北からの侵入者に押し出された江南の人々が日本列島にやって来たのだが、その人達が飢えないためには、列島の森林は邪魔だったのである。ただし、温暖で湿潤、海洋に囲まれているという特性から、当時のボートピーブルを養うのに森林の皆伐は必要なく、森林と共存した水田耕作が可能だったのは、今日に至るまで日本列島と列島に暮らす人々にとって幸福なことだった。

中世温暖期に人口が増え、ベストの大流行で2/3まで減らしたものの、ルネサンスを経て文明が高度化し人口も回復基調にあったところにやってきた小氷河期がもたらしたものが、近世の欧州人の殖民と「新大陸」における文明及び自然破壊である。要するに、文明や人口が肥大化すればするほど、大規模な人口移動は混乱を引き起こす。寒冷化こそ困った事態を招くのである。考えてみればいい。石油価格が高騰しつつあった低温の今年の冬、低所得者に燃料費補助をする、と表明した北日本の自治体が複数存在した。

温暖化は巷間言われているほど恐れることではないだろう。

100年後の予測ということですが、今はまったくわかりません。暑くなるということは単純なことではなく、生物の生産性が激減するということです。熱帯の海の魚の量と寒帯の魚の量を比較すれば一目瞭然です。

私たちは年縞を使って地球温暖化が引き起こされた1万5000年前当時の生態系の変化を調べました。氷河時代の寒冷な気候に適応していたトウヒやゴヨウマツなどが絶滅し、温暖な気候に対応したブナやナラやスギなどが生え始めます。しかし、それらが安定して生育するまでに500年以上もかかるんです。その間、どうするというんですか。不安定な生態系のところで、500年間灼熱地獄ですよ。

こういうところが、結論ありきの文章のレトリックである。いきなり温暖化=灼熱地獄になってしまっている。「暑くなる」のは生物の生産性を低下させるかもしれないが、適度に「暖かくなる」ことは生産性を上げる。寒くなった近世ヨーロッパではパンが食べられなくなったと記述されている(Si on ne peut pas manger de pain, il vaut mieux qu'on mange du gateau てなことを言った女もいたようだが)。

確かに気温が変化することによる森林相の遷移には時間がかかる。しかし現代の文明の祖先は、この15000年前に引き起こされた温暖化ではないのか。世界自然遺産だと持ち上げられている白神山地はブナ林である。温暖化があったからこそ今日の姿がある。そして「500年の灼熱地獄」のあとに現生人類は文明を発達させたのではないのか。

ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond1937年ボストン生まれの地理学者。ケンブリッジ大学において生理学で学位取得後、フィールドワークに基づく進化生物学、及び生物地理学を並行して研究)が言っているように、環境に対する知識、見通し、技術は、ほぼ出尽くしているんです。

ですから、実際に今現在の環境を良くするには、政治の力が必要です。現場でずっとやって来て、いくら「学」の立場が頑張っても限界があると痛感しました。しかし、いきなり政治家を変えるのは難しい。経済の発展だけを考えているような政治家だったら、危ない。それに比べて官僚は随分と危機感を感じていますから、意識の高い人たちと一緒に勉強会をやっています。

ジャレド・ダイアモンドという人はそんなに凄い人なのか!環境科学というのはまだよちよち歩きでわからないことも多い、というのが適切な認識ではないのだろうか。意識の高い人達と言うが、マインドコントロールされていたり、新たな利権に熱心なだけ、という可能性も多分に考えられる。

それから江戸時代が手本に出来る、という下りがある。最近は江戸はエコロジー都市だった、ということが広く言われている。確かにリサイクル・リユースの仕組みが確立していたし、江戸時代は日本全体の人口も3000〜3500万人程度で安定していた。しかし過度な美化は禁物である。江戸は単身赴任の武士や地方出身の町人などが多くて男女比が3:1くらいだったようだ。極めて人口構成のいびつな都市であり、遊郭も幕府公認だった。火事も多かったし、そもそも糞尿のリサイクルができていたとはいえ、そのため路上は輸送途中糞尿がこぼれて臭かったというし、下水道がないから基本的に排水は河川に垂れ流し、人口が増えた江戸時代後期の河川は臭かったらしい。ヨーロッパの道路や河川とどこが違ったというのだろうか。神田上水、玉川上水といった上水道が江戸時代初期につくられていたから、この都市は250年も「100万都市」を支えられたのであり、その時代は神田山を切り崩し日比谷入り江を埋め立てるという、土木事業による大規模な改変の上に成り立っていることも事実なのである。

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