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2005年5月15日 (日曜日)

脱線事故(続きその13) ATS

少し前に、この件は、今後は当局による捜査と原因究明に委ねるべき、と述べたので、おとなしくしていたし、これからも基本的にはそのつもりだが、たまには発言する。今日は、自分自身の勉強も含めてATSについて述べることにする。

Wikipediaから

ATS = Auto Train Stop 自動列車停止装置
ATS-Sx型(改良型ATS) 旧式のS型の欠点(運転士が確認作業をすると非常ブレーキがかからなくなる)を改良したもの。xの部分はJRの会社によって異なる。例えば東日本だとSN
停止現示の絶対信号機(つまり赤信号。制限速度0km/h)直下の地上子を通過すると、非常ブレーキがかかる。

ATS-P型
地上子から電気信号を受信した列車は、停止現示の信号機やカーブなどの速度制限までの距離に応じて、その列車が停止・減速できるパターン(列車が制動を開始してから停止・減速するまでの速度変化を表す曲線グラフ)を作成・記憶する。作成したパターンを超える恐れがある場合は「パターン接近警告」を運転士に通知する。パターン速度より速度が超過すると、常用最大ブレーキをかけて信号機の手前で列車を停止させる。

まあ、平たく言えば、パターンを参照してその時の走行位置の「制限速度」を超えようとすると警告が出され、超えてしまうと非常ブレーキがかかる、ということである。ゲームの「電車でGo!」をやってみると体感できる。制限速度の表示を無視して加速すると、強制的にブレーキがかかる(乗客が怒る、というおまけもついている)。ただしこれはゲームという単純化された世界での設定である。

ATS-Pが設置されていれば、今回の脱線事故は防げたのではないか、という論点であるが、仮定の話であるので何ともいえない、というのが本当のところだろう。最近のマスゴミはどうしても二者択一的な記述をしたがるので、今回「ATS-Pが未設置なために大幅な速度超過で脱線した → ならば設置されていれば速度超過はおこらず事故も防げたはず」と書きたくなるのだろう。

これについて詳細は、ひな私語録 ブログ版【福知山線脱線事故】ATSに関する勘違い  [鉄道] に詳細な記述があるので、こことそこに記載された参照サイトを御覧いただきたい。平たく言うと、ATS-Sx型では赤信号を通過しようとすると非常ブレーキがかかるのに対して、P型では赤信号の位置で停止できるようにその手前でブレーキがかかる、というだけのことであり、今回のケースでもATS-P型が設置されていたとしても、事故現場には同じ速度で突っ込んだ可能性が大きい、ということである。ならば事故はやはり起きてしまう。

そもそも、脱線の本当の原因は特定されていない(恐らく複合的な原因)ので、この議論はあまり意味がないと言ってもいいのだが、「ひな私語録」やその他のATSに言及したサイトでは、ここいらあたりも丁寧に説明していて、ATS原理主義者に対する説得を試みているわけである。

もちろん、ATS-Pの設置率が他のJRと比較して低いことをもって、JR西日本の安全意識が低いのではないか、という指摘はできると思うが、それ以上でもそれ以下でもない。

ATS-Pは運転士が手動で解除できる。それが原因の事故やトラブルも過去に発生している。「ATS 解除」で検索すれば、いくつかのサイトがヒットする。仮に曲線区間での制限速度に対してATS-P型の効果があったとしても、解除してしまえばそれまでである。

以下はあくまでATS-Pが導入されていれば、という仮定と推測に基づく記述であるが。
事故現場のR300の右カーブを仮に108km/hで無事に通過できたとして、その先の東海道本線との合流前のさらにきついと思われる左カーブがあり、その先には停車駅である尼崎駅があるので、70km/hに速度が落ちるように非常ブレーキがかかった、というのがありえた事象だろう。もっとも左カーブのあたりでは制限速度が40km/hくらいになっているかもしれないので、連続的に非常ブレーキがかかって、車体は不安定な状態になり、やはり脱線していたかもしれない。マンションには激突しないが、工場に突っ込んだかもしれない。
これを避けようとすれば、運転士はATS-Pを解除して走行し、よくて尼崎駅をオーバーラン、悪くすると尼崎駅手前の急カーブから東海道本線との並行区間あたりで脱線して、さらに大事故につながった、という可能性も考えられる。

そして、JR西の過剰な定刻厳守運行主義とこれに違反した運転士に対する懲罰制度が伝えられているようなものであれば、運転士によるATSの手動解除など、日常茶飯事だろう。ATS解除に対してペナルティを与えるのならば話は別だが、これと定刻運行を厳守せよ、というのが両立しないことは明白である。

以下はあくまでATS-Pがカーブ速度制限付きで導入されていれば、という仮定と推測に基づく記述であるが。
直線部分を130km/hで走行してきたので、ブレーキがかかったとしても事故現場のR300の右カーブには108km/h程度で突っ込む。そして仮に無事に通過できたとして、その先の東海道本線との合流前のさらにきついと思われる左カーブがあり、その先には停車駅である尼崎駅があるので、70km/hくらいに速度が落ちるように非常ブレーキがかかった、というのがありえた事象だろう。もっとも左カーブのあたりでは制限速度が40~50km/hくらいになっているかもしれないので、連続的に非常ブレーキがかかって、車体は不安定な状態になり、やはり脱線していたかもしれない。マンションには激突しないが、工場に突っ込んだかもしれない。
悪くすると尼崎駅手前の急カーブから東海道本線との並行区間あたりで脱線して、さらに大事故につながった、という可能性も考えられる。

そして、JR西の過剰な定刻厳守運行主義とこれに違反した運転士に対する懲罰制度が伝えられているようなものであれば、「定時運転の妨げになる」ATS-Pの設置は労働組合当たりから猛反対が出るだろう。現状のままでは、ATS-Pの設置と定刻運行を厳守せよ、というのが両立しないことは明白である。

【追記】
せうさんから、ATSの記述に関する誤りの指摘をいただきました。
コメントを御覧いただければわかります。
可能な限り正確な記述を心がけるように、今後も努力いたします。

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コメント

googleで検索してやってきました。フロレスタンさんが参照しているひな私語録のほうが勘違いが多いです。

>ATS-Pは運転士が手動で解除できる。

ATS-Pは原則手動では解除できないようになっています。地上子(車両に情報を送信する装置)が解除信号を送って初めて解除できます。解除するまで、列車は10km/h以下での徐行を強いられます。ATS-Pを手動で解除できるのは地上の信号設備の不具合の時だけです。しかも、解除中も15km/h以上スピードを出すとブレーキがかかります。旧国鉄/JRにおけるATSの手動解除が要因の事故はすべてATS-S型(旧型ATS)と、その改良型に絡むものです。JR東日本が1988年の東中野事故以降、首都圏でのATS-P導入計画の前倒しをしたのと、大月事故以後予定外だった首都圏の列車本数が15~30分間隔の低密度な一部線区・区間(相模線や伊東線など)での導入に踏み切ったのは、ATS-Pが人為的かつ簡単に解除できない面を重視したからと思われます。

>今回のケースでもATS-P型が設置されていたとしても、事故現場には同じ速度で突っ込んだ可能性が大きい

それはそうなのですが、ATS-Pにもカーブやポイントに対する速度制限を設定することができます。現にJR東日本でもカーブやポイントに対する速度制限を掛けるATS-Pの地上子が設置されている線区があります。導入開始時は、あまり速度制限用の地上子はなく、しかもあったとしてもポイント制限用が主でしたが、現在はポイントはもちろん、カーブにもかなり導入が進んでいます。JR西日本のATS-P設置済み線区でもないわけではありません。しかし、JR東・西どちらもまだ100%ではありません。これを100%にする努力が必要です。まあ、カーブ制限ならでかい地上設備がいらないのですぐできるでしょう。

投稿: せう | 2005年5月25日 (水曜日) 08時35分

せうさん

ご指摘ありがとうございます。
私も鉄道の専門ではありませんので、間違い、勘違いや古い知識が塩漬けになっていたりします(^_^;)。

一応裏を取ってから記事をつくるようにしていますが、参照記事が間違っていたり、古かったりしますので、せうさんのようなご指摘はありがたいことです。

ATSそのものは金のかかる設備ですが、カーブ部分での速度制限は、できるところから早く実施すべですね。

いつも鉄道のことを記事にする訳ではありませんが、今後ともよろしくお願いします。

投稿: フロレスタン | 2005年5月25日 (水曜日) 09時32分

コメント、わざわざありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

投稿: せう | 2005年5月25日 (水曜日) 12時48分

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